石筍が語る空の変化――西表島から読み解く酸性雨とアジアの環境影響 - 2007年6月
沖縄県西表島に広がる鍾乳洞。その静かな石筍(せきじゅん)が、実は大気汚染の変遷を記録している。2007年、九州大学や総合地球環境学研究所の研究チームは、西表島の鍾乳石を用いた酸性雨の長期分析を行い、これまでにない明瞭な環境変化の証拠を提示した。
この研究では、西表島の鍾乳石に含まれる硫黄や炭素の同位体比を精密に測定することで、過去約40年間にわたる酸性雨の強度とその要因を明らかにした。特に1990年代以降、雨水中の硫酸イオン濃度が2~3倍に急増していることが判明。この時期は、中国をはじめとする東アジア諸国で石炭使用量が増加し、SO2(二酸化硫黄)の排出量が急増した時期と重なる。
西表島は偏西風の通り道に位置し、アジア大陸からの越境大気汚染物質が到達しやすい地理的特徴を持つ。石筍は年間1mm以下の速度で成長するが、成長層に含まれる成分が大気中の化学変化を反映しているため、天然の「環境記録装置」として機能する。
この分析結果は、温暖化やPM2.5などとともに、目に見えにくい大気環境変化が、遠く離れた島の自然にも大きな影響を与えている事実を浮き彫りにした。酸性雨の増加は、熱帯性樹林の土壌酸性化や生態系の崩壊にもつながるおそれがあり、地域限定ではない環境リスクとして認識されるようになっている。
本研究はまた、酸性雨の影響が日本国内でも地理的に偏っており、特に沖縄・西表島のような自然豊かな島嶼部が影響を受けやすいことを示唆。研究チームは、今後さらにアジア全体の気象・大気データとの連動分析を進め、環境政策への反映を目指している。
この成果は、環境破壊の「静かな記録者」としての石筍の役割を再認識させ、科学による自然観測が持つ力をあらためて社会に示すものとなった。
No comments:
Post a Comment