Saturday, April 5, 2025

水の声を聞かぬ町──北海道・羅臼町から浮かぶ水道の危機

水の声を聞かぬ町──北海道・羅臼町から浮かぶ水道の危機

北海道の水道事業は、静かに、しかし確実に、限界に向かって進んでいる。かつて生活を支えた鉄とコンクリートのネットワークは、老朽化の波にさらされ、更新の手が追いつかない。高度経済成長期に整備された多くの水道施設は、既に耐用年数を過ぎて久しく、劣化が進んだ管路は、今や破損や漏水の温床となっている。令和50年度には、水道施設の更新に必要な費用が、現在の1.5倍に膨れ上がるとの試算もあるが、その重みに耐えうる財政を持つ自治体は、北海道にはそう多くない。

財政の面では、過疎化と人口減少が深刻な影響を及ぼしている。人が減れば、水も売れない。節水意識の高まりと相まって、水道料金収入は減少の一途をたどる。更新もままならぬ中で、設備の維持・修繕を続ける自治体は、疲弊を隠しきれない。赤平市では、水道料金の改定を行わなければ、老朽化した施設の更新が不可能になると警鐘が鳴らされている。だが、住民の負担増には慎重な声も多く、事業と住民生活のバランスをどう取るか、答えのない問いが続いている。

そして今、水道の未来にとって最も深刻なのは、「人」がいないことである。技術職員がいなければ、設備の状態を診る目がなくなり、判断を下す手が止まる。北海道の小さな町──羅臼町では、約8年間もの間、水道担当の技術職員が不在だった。この"空白の時間"の中で、水道インフラは静かに、しかし確実に老いていった。

こうした課題に対して、北海道は水道事業の広域連携を進めている。町を越え、設備と人材を共有し、持続可能なインフラとしての水道を模索する試みだ。また、国や道からの財政的支援や技術支援も徐々に拡大している。しかし、地理的に広く、人口密度の低い北海道では、そうした連携すら容易ではない。統合・効率化の理念と、現場の距離や事情との間には、いまだ越えがたい壁がある。

水は、人の暮らしを支えるだけでなく、その町の制度や意志の反映でもある。羅臼町の"声なき8年"は、制度が崩れたとき、誰が水を守るのかという問いを私たちに突きつけている。いま、静かに水の声を聞く時が来ているのかもしれない。

関連情報(出典)

・北海道庁「経営比較分析表」
・羅臼町「水道事業経営比較分析表」
・赤平市「水道料金改定の検討」
・国土交通省「水道事業の広域化推進に関する資料」

さらに詳しい資料をご希望の場合は、各自治体の水道課や国の水道統計資料を参照されることをおすすめします。

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