芽吹きの灯、一九四五年から一九五六年のシベリア抑留
雪と氷がすべてを覆い尽くすシベリアの冬、私はただ、生きることだけを考えていた。終戦後、遠く旧ソ連の地に送られ、寒さと飢えに身をさらす毎日。配給は乏しく、命をつなぐには工夫が必要だった。ある日、乾燥大豆を布に包み、水を含ませて体温で温めることを思いついた。三日後、白い芽が布の隙間からのぞいた。それは、まさに命の芽だった。
仲間たちがそれを見て歓声を上げた。寒さのなかでも育った小さな芽は、希望そのものだった。火を使わずに食べられるもやしは、燃料の節約にもなり、ビタミンCの補給にもなった。ロシア兵の一人が驚いて言った。「日本人はこんな寒さでも豆を育てるのか」と。私は黙って微笑んだ。生きるために、知恵を絞っただけだった。
この工夫は、私たちの生きる意志の象徴であり、極限の地に咲いた小さな奇跡だった。豆の芽は、過酷な抑留生活に差し込んだ一条の光。あの芽の輝きを、私は今も忘れることができない。
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