沈黙の監視者たち ― NSA傍受活動の全貌(2000年代〜2010年代)
アメリカ国家安全保障局NSAは、外国の通信を傍受し解析する任務を持つ情報機関として、冷戦期からその活動を拡大させてきた。2000年代以降、とりわけテロ対策とサイバーセキュリティの名のもとに、その傍受活動はかつてないほどの規模に達している。とりわけ、ユタ州ブランフデルに建設されたユタ・データセンターは、その象徴的な存在である。
この巨大施設は2013年に本格運用を開始。世界中から収集される通信データを保存・解析する目的で設計された。対象は電子メール、電話、インターネット検索履歴、SNSのやり取りにまで及び、その範囲は日常の情報空間を丸ごと覆っている。
NSAは衛星や海外のリスニングポスト、さらに国内の通信事業者の施設内に設けられた秘密の監視室などを通じて、情報を日々吸い上げている。その傍受規模は驚異的で、1日あたり約17億件、年間にして約20兆件のデータが処理されている。これは人類の通信活動を網羅するような圧倒的な量であり、数字の重みだけでも監視の実態が伺える。
ユタ・データセンターのハード面も常識外れの規模である。建設費は約2000億円とされ、ストレージ容量は最大5ゼタバイト。これは全世界の図書館の情報を数百倍にした規模に相当し、NSAがいかに膨大なデータを収集・保存しようとしているかを物語る。また、この施設は約65メガワットという膨大な電力を必要とし、年間の電気代はおよそ4000万ドル。中小都市の消費量に匹敵するほどだ。
データを収集するだけでなく、NSAは暗号解読能力の強化にも注力している。スーパーコンピュータによる解析技術を駆使し、量子計算技術の研究も進められている。こうした技術は、今後の情報戦において国家間の優位性を左右する鍵ともなる。
だが、このような活動は、プライバシーと市民の自由に対する深刻な懸念も引き起こしている。国内外問わず、無差別に傍受された通信には市民の個人情報が含まれる可能性があり、憲法修正第4条に反するとの批判も根強い。監視国家化への道を危惧する声も高まりつつあり、情報と自由のバランスが問われている。
アメリカの監視社会化が現実味を帯びる今、沈黙の中で耳を澄ませる機関の存在に、私たちはどう向き合うべきなのか。その問いは、未だ明確な答えを持たないままである。
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