白の贈り物 二〇〇九年から二〇二〇年代までの雪氷冷熱の旅
雪氷を活用した自然冷熱システムが、静かに、けれど確かな歩みで、私たちの暮らしに浸透してきた。北海道や新潟など、冬の恵みを豊かに受ける地域では、その冷たさが次なるエネルギーとして注目されている。
北海道では、二〇〇三年度以降、毎年三〜四件のペースで導入が進み、十年のうちに三倍以上に増加した。公共施設や農業用の貯蔵施設で始まった取り組みは、次第に民間企業へと広がっていく。
二〇〇六年には、苫小牧市のトヨタ自動車北海道が、続く二〇〇九年には、千歳市のデンソーエレクトロニクスが雪冷熱を冷房に導入。雪を蓄え、夏にその冷気を活用する――その発想は、地域の自然を活かした技術として多くの支持を集めている。
NTTコミュニケーションズや富士通、リコー、室蘭工業大学らが連携した北海道グリーンエナジーDC研究会では、ホワイトデータセンター構想が立ち上げられた。外気冷房やフリークーリングに加え、雪氷冷熱を組み合わせることで、空調に使うエネルギーを最大九割削減するという壮大な試みである。
新千歳空港では、洞爺湖サミットを機に構築された冷房システムが稼働。除雪した雪を二トンずつ保存し、その融解水でターミナルビルを冷却。クーラー五台のうち三台を雪の力でまかなうことで、空調の消費電力を七〇〜九〇パーセントも削減するという。
新潟県小千谷市では、個人住宅での実験をもとに「雪冷熱エネルギー住宅建築のためのガイドライン(仮題)」の策定が進められている。一般家庭での導入が視野に入り、地域経済や工務店との連携も見込まれている。
こうした取り組みは、地球温暖化の影響による冷房需要の高まりに対応しつつ、自然エネルギーへの転換を象徴するものとして位置づけられている。二〇〇九年度には、経済産業省がグリーン熱証書制度の対象に雪氷冷熱を検討していた。
北海道における現況 二〇二〇年代
現在も、北海道では雪氷冷熱の技術が息づいている。新千歳空港では七万トンを超える雪を蓄え、夏場の空調に利用。そのエネルギー効率の高さから、国内外で高い評価を受けている。
札幌市では、モエレ沼公園「ガラスのピラミッド」で三千立方メートルの雪を貯蔵。館内冷房に使われ、年間で三〇トンを超える二酸化炭素排出削減につながっている。山口斎場では雪を貯蔵庫に搬入し、館内の冷房負荷の四割をまかなう。
さらに、円山動物園では、レッサーパンダのために雪を使った冷房システムを導入。美唄市のJAびばい「雪蔵工房」では、三六〇〇トンの雪を活用して玄米を低温保存し、消費電力を従来の半分以下に抑えている。
加えて、冷涼な気候を活かしたデータセンターの冷却技術も進行中。ホワイトデータセンター構想は、その後も深化し、サーバー冷却における新たな可能性を切り拓いている。
関連情報
・環境省「再生可能エネルギー熱利用技術概要」
・TDK「雪冷房システム紹介」
・J-STAGE「北海道における雪氷冷熱利用報文」
・新千歳空港の冷房システム事例
・農研機構「農産物貯蔵における雪氷冷熱利用」
・国土交通省「雪冷房システム指針」
・白馬村およびニセコ町の導入施策と地域事例
雪はただ白く降り積もるだけのものではない。かつては厄介者とされていたそれが、今では人と地球を冷やす優しき力となっている。その静けさと冷たさがもたらす未来は、思いのほかあたたかい。
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