Sunday, October 19, 2025

二葉あきこ ― 終戦のプラットホームに咲いた歌声 1940年代~1950年代

二葉あきこ ― 終戦のプラットホームに咲いた歌声 1940年代~1950年代

二葉あきこ(1915年広島県生まれ)は、戦前から戦後にかけての日本歌謡史を象徴する女性歌手である。1939年、日本コロムビアからデビューし、澄んだ声質と確かな発声で頭角を現した。終戦直後の1945年に発表した「夜のプラットホーム」は、焼け跡の国に戻る人々の心情を重ね合わせるようにして広く共感を呼び、大ヒットを記録した。鉄道が再び国土を結び始めた時代、その旋律はまさに"再出発"の象徴であった。

戦後の日本ではラジオが家庭に普及し、レコードも徐々に庶民の手に戻った。人々が娯楽と希望を求める中で、二葉の清楚な声と穏やかな表現は癒しを与えた。1949年の「水色のワルツ」はその代表で、淡谷のり子のブルース的な憂愁とは異なり、柔らかく明るい抒情が特徴だった。この曲は戦後復興期の空気と女性の感性を融合させた名曲として今も語り継がれる。

同時期に登場した奈良光枝や渡辺はま子がクラシック声楽に基盤を置く技巧派だったのに対し、二葉はより素直で自然な情感を重視した。華美な装飾を避けながらも、語るように歌う姿勢は、後の美空ひばりや島倉千代子へと続く"感情表現の歌謡"の系譜を生んだといえる。

彼女の歌は、戦争という断絶の中で"歌うこと"の意味を取り戻した日本人の心の証であり、荒廃の中から立ち上がる時代の祈りであった。静かに、それでいて確かな輪郭を持つ二葉あきこの歌声は、昭和歌謡の原風景として今も多くの人の記憶に残り続けている。

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