風のしるし-北海道-1973年頃
1973年頃の北海道の漁村では、春の訪れとともに吹く「春一番」の風が、漁民たちにとって特別な意味をもっていた。風が吹く方向によって、その年の漁の吉凶を占うという古い風習があり、それは単なる天候予測ではなく、海と共に生きる人々の信仰や世界観に根ざした行為だった。「風は海の神の手紙じゃ」と語る村の長老の言葉には、自然との対話を試みてきた漁村文化の叡智と詩情がこめられている。1970年代は、急速な都市化とテレビの普及、若者の流出が進む時代であり、こうした民間信仰や口承伝承も次第に忘れ去られようとしていた。漁業もまた、近代的設備の導入や市場主導の変化により、従来の「風を読む」経験則からの脱却が進んでいた。科学的気象予報に押されるなか、風を神の意志と捉えるような感受性が失�
��れていく様は、単なる信仰の衰退ではなく、共同体の時間感覚や自然とのつながりそのものの変容を意味していた。こうした風の記憶が忘れられたとき、風はもはや語りかけてはくれないのかもしれない。
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