Friday, October 31, 2025

凛とした存在感と、都市の淵に立つ女 - 篠ひろ子と七〇年代日本の女性像(一九七〇-一九八〇年代)

凛とした存在感と、都市の淵に立つ女 - 篠ひろ子と七〇年代日本の女性像(一九七〇-一九八〇年代)

篠ひろ子(一九四八年生まれ)は、戦後の高度経済成長期からその後の社会変容期にかけて、テレビドラマや映画を通じて「働く女性」「家庭と社会のあいだに生きる女性」といった新しい女性像を浮かび上がらせた女優である。一九六〇年代末から七〇年代にかけて、映画からテレビへの移行が進み、女性の社会進出や価値観の変化が急速に広がる時代背景のなか、彼女の演技はその変化を映し出す鏡となった。東北学院大学在学中にスカウトされ、歌手としてデビューしたのち、一九七三年のテレビドラマ『時間ですよ』で女優として注目を集めた。

代表的な役としては、女将役や家庭劇の中の姑・娘・妻といった立場を演じ、例えば『金曜日の妻たちへIII』などで都市中流層の女性たちの悩みや友情を描いた。彼女の佇まいには、上品さと覚悟が共存し、「家庭だけではない、自分が社会の中でも価値を持つ」という女性像を提示した。俳優としての活動を休止し、一九九二年に作家の伊集院静と結婚後、仙台へ移住したという人生軌跡も、戦後からバブル期、日本の文化が変化し続けた時代を背負っている。

同世代の女優と比較すると、例えば加賀まりこが退廃や都会的余裕を背景に女を演じたのに対し、篠ひろ子は"日常と仕事と家庭"を抑えた節度ある演技で、「普通の女性でも芯を持てる」という希望を画面に刻んだ。また、松原智恵子が清純・青春像を主に担った一方で、篠は成熟期の女性をリアルに演じ、テレビ時代の中流家庭像として幅広い共感を集めた。

当時の時代背景には、女性の社会進出の加速、離婚率の上昇、核家族化、テレビ視聴率競争などがあり、ドラマの主なテーマも"家族のかたち""働く女""妻としての自立"へと移行していた。篠ひろ子の演じた女性たちは、そうした変化のただ中にありながらも揺らがず、"凛と立つ女性"として記憶に残る。

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