山を渡る声-1973年頃
1973年頃の福島県の山村では、「山を渡る声」として知られる風習が存在していた。深い谷間に点在する家々では、山彦のように声を掛け合い、その反響で人の所在や無事を確かめ合っていたという。特に厳しい冬季や山仕事の合間に使われ、実用性とともに地域の結びつきを強める役割も果たしていた。呼びかけは「おーい」や名を叫ぶ形で、応答があることで安堵を得た。この行為は、携帯電話や無線のなかった時代においては重要なコミュニケーション手段だったが、現在ではそうした声も消えつつある。文明の進展に伴い、声がこだまする静けさもまた失われ、今ではほとんど見られない風景となった。かつての山村の暮らしと人と人との距離感を象徴する文化として、記録に留めておく意義は大きい。
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