Thursday, October 30, 2025

海をわたる獅子舞-愛媛県-1973年頃

海をわたる獅子舞-愛媛県-1973年頃

1973年頃、愛媛県の沿岸部の漁村では、地域の神事に欠かせない獅子舞が船に乗り、海を越えて隣の村へ渡るという風習が行われていた。海上で波に揺れながら舞う獅子の姿は、厳粛であると同時にどこか滑稽さも漂わせ、見る者に強い印象を残した。これは単なる儀礼ではなく、海と人との生活的・精神的な結びつきを象徴する神聖な行為でもあった。

このような風習は、海を神の通り道や神の領域とみなす日本の海岸文化の典型例といえる。例えば長崎の平戸や広島の音戸にも似た例があり、船に神を乗せて巡行する「お舟神事」は各地で見られる。この獅子舞の渡御もまた、神を迎える、あるいは送り出すという信仰心が形となったものである。

しかし1970年代の高度経済成長期には、漁業の近代化や過疎化が進み、伝統儀礼の維持が困難になっていった。若者が都市に流出し、村の行事に参加する人が減少したことで、この風習も自然と途絶えていったという。失われた風習ではあるが、そこには人と自然との繊細な関係性が刻まれており、現在の我々に問いかけるものがある。

なお、愛媛県は伊予水軍の歴史もあり、海と生活が密接に関わってきた土地柄である。こうした文化の記憶を記録として残すことは、風土の理解を深める上で重要な意義を持つだろう。

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