殴る英雄――力道山と戦後ニッポンの「力」の欲望(1950年代〜1960年代)
戦後の混乱と敗北感の中、日本人は新たな「強さ」の象徴を求めた。そんな時代に登場したのがプロレスラー・力道山である。元力士の彼は、テレビの黎明期にアメリカ人レスラーと対決し、その姿は街頭テレビで熱狂的に視聴された。「殴る日本人」としての彼の暴力は、多くの人々にとって敗戦の屈辱を晴らす代理的な手段であり、国家的自信の回復を象徴するものだった。その暴力性は、正義の名の下で許容されるべきかという倫理的議論も呼び起こした。梶原一騎が脚本を手がけた実録映画では、暴力と道徳の緊張関係が描かれ、戦後型ヒーローの原型が提示された。また、テレビとプロレスの融合は、娯楽の民主化と家族の共有時間を生み出し、メディア文化を形成した。力道山の死もまた、神話の一部となり、その精神は
昭和プロレスの礎となっていく。
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