夢の王国の建築家―1950〜1970年代、渋沢龍彦が築いた幻想と知の美学（1950〜1970年代）

夢の王国の建築家―1950〜1970年代、渋沢龍彦が築いた幻想と知の美学（1950〜1970年代）

渋沢龍彦は、戦後日本の合理主義的風潮の中で、幻想と美を取り戻そうとした知の冒険者である。ボードレールやサド、シュルレアリスムの翻訳を通じて、敗戦後の日本に「非合理の美学」を導入した。1950〜60年代には『幻想の彼方へ』『サド侯爵の生涯』などを通じ、理性と狂気、宗教とエロス、美と死といった二律背反を耽美的に融合。彼の批評は論理と詩情を兼ね備え、思索を快楽へと変える特異な文学体験を生み出した。1970年代には寺山修司ら前衛芸術家に影響を与え、アングラ文化の精神的支柱として再評価される。幻想を現実逃避ではなく、精神の自由の象徴として位置づけた彼の思想は、物質主義に傾く社会への静かな抵抗であった。渋沢龍彦は理性と夢想の狭間に生きた、美と知の調和者である。