Tuesday, October 14, 2025

豊田有恒の『時間砲計画』誕生秘話―冗談と科学が交差した創作の夜(1960年代後半)

豊田有恒の『時間砲計画』誕生秘話―冗談と科学が交差した創作の夜(1960年代後半)

1960年代後半、日本SF界は若き作家たちの情熱に満ちていた。戦後の復興が進み、未来への希望と不安が交錯する時代。新宿や渋谷の居酒屋には、小松左京、筒井康隆、眉村卓、豊田有恒らが集まり、酒を飲みながら科学と文学の未来を語り合った。『時間砲計画』(1969年)は、そんな"酔いどれ談義"から生まれた作品である。

豊田が「時間を撃てたら戦争は終わる」と笑えば、小松が「未来そのものが崩壊する」と返す――その冗談が物語の原型となった。作品は、軍事研究所が時間を砲弾のように放つという突飛な設定を軸に、科学の暴走と人間の滑稽さを描く。背景には、1970年の大阪万博を控え、科学技術を信仰しながらもその限界を感じ始めた日本社会の空気があった。

豊田は理系的知識とユーモアを武器に、科学と冗談、現実と空想の境界を軽やかに往来した。『時間砲計画』は、時代の自由な想像力を象徴する作品であり、SFが知的遊戯として成熟していく過程を示した。

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