Tuesday, October 14, 2025

広瀬正と大伴昌司の死―失われた想像力の光とその継承(1970年代初頭)

広瀬正と大伴昌司の死―失われた想像力の光とその継承(1970年代初頭)

1970年代初頭、日本SF界に大きな衝撃を与えたのが、広瀬正と大伴昌司という二人の俊才の早すぎる死だった。広瀬は理系出身の作家で、時間や因果を題材にした『マイナス・ゼロ』『ツィス』などで"日常と非日常の融合"を実現し、科学を通じて人間の感情と哲学を描こうとした。その軽妙で知的な文体は星新一や筒井康隆にも影響を与え、もし長生きしていれば日本SFはより深い人間主義的方向へ進化していたといわれる。

一方、大伴昌司は『少年マガジン』などで怪獣図鑑や未来予測図を生み出し、視覚的SF文化を牽引した編集者だった。彼の創造力は、科学と空想を結ぶ"架け橋"として多くの子どもに夢を与えたが、若くして夭逝したことでその流れは断たれた。

この二人の死は、日本SFに「喪失の季節」をもたらしたが、残された仲間たちは想像力の継承を誓った。小松左京は科学の倫理を、星新一は人間の寓話性を、筒井康隆は言葉の実験を深化させ、彼らの志を作品の中で生かしていった。日本SFはこの悲劇を契機に成熟へと向かい、創造の火を絶やさずに新しい地平を切り開いていったのである。

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