Thursday, October 23, 2025

南こうせつ ― 夕暮れの神田川に映る青春の光と影 1970年代

南こうせつ ― 夕暮れの神田川に映る青春の光と影 1970年代

南こうせつ(1949年大分県生まれ)は、1970年代のフォークブームを象徴する存在である。高度経済成長期の終盤、学生運動の熱が冷め、若者たちが政治よりも日常や愛情を求めた時代に、「かぐや姫」を率いて登場した。彼の歌は、都市化と孤独の中で生きる庶民の小さな幸福をやさしく描き、心に寄り添うものであった。代表曲「神田川」(1973年)は、六畳一間の下宿生活を通して青春の儚さを刻み、学生運動後の世代にとっての共感の歌となった。石けんの匂いや銭湯通いといった描写は、現実の貧しさの中にあった温もりを鮮やかに伝えた。その後も「赤ちょうちん」「妹」などの名曲を発表し、家庭的で郷愁を帯びた作風を貫いた。吉田拓郎や井上陽水が社会性や実験性を追求したのに対し、南は"癒し"と"共感"を重んじ
る叙情派として、時代の心を柔らかく包み込んだ。彼の音楽は今もなお、人々の記憶の中で静かに息づいている。

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