古今亭志ん朝の姿勢 ― 1970年代以降の落語再生と伝統の継承
古今亭志ん朝(一九三八~二〇〇一年)は、父・古今亭志ん生の強烈な存在感を背にしながらも、自らの芸風を築き上げた落語家である。大阪・島之内寄席など関西の舞台にも積極的に出演し、新作落語にも挑戦した彼の姿勢は、落語界の刷新を象徴していた。1970年代はテレビの普及で寄席が衰退の危機に直面していた時期であったが、志ん朝は古典を守りながらも新しい題材を取り入れ、観客を寄席に呼び戻し、落語の現代的な魅力を提示した。
父・志ん生が庶民的で破天荒な芸を見せたのに対し、志ん朝は気品ある語り口と端正な姿勢を特徴とした。高度経済成長を経て社会が成熟に向かう中で、志ん朝の芸は都市生活者の洗練された嗜好と合致し、落語を知的で上品な芸能へと高めた。また上方寄席への出演を通じて東西の交流を深め、東京落語の枠を超えた広がりを生み出した点も注目される。
志ん朝は古典落語の徹底と新作への柔軟さを両立させ、常に観客に新鮮な印象を与え続けた。その結果、彼の高座は伝統と時代性の融合を体現し、1970年代以降の落語人気を再び盛り上げる中心的存在となった。志ん朝の姿勢は、落語を過去の遺産ではなく現代に呼吸する芸能として未来へ繋いだ重要な実践であった。
No comments:
Post a Comment