Tuesday, October 14, 2025

小松左京の「未来から見た現在」―百年後の眼で時代を見通した作家(1971年)

小松左京の「未来から見た現在」―百年後の眼で時代を見通した作家(1971年)

1971年、高度経済成長が頂点を迎えた日本で、小松左京は「未来を書くには、いまを100年後から眺める視点が必要だ」と語った。当時の社会は豊かさを追い求める一方で、公害や過密都市、情報過多といった歪みが顕在化していた。小松はその時代を「制御不能な進歩」と見なし、未来を描くことで現在の構造的問題を照射しようとした。

彼にとってSFは予言ではなく"歴史の実験"であり、未来の虚構を通じて現代の現実を問う手段だった。『日本沈没』(1973年)は、単なる災害小説ではなく、国家や科学の限界を検証する"未来史"として構想された。彼は未来を語ることで、いまを俯瞰しようとしたのである。

また、冷戦や宇宙開発競争が進む中で、小松は「科学を理性で制御できるか」という課題を文学の中心に据えた。彼の作品には常に"科学と倫理の均衡"というテーマが流れ、人間の知性への信頼と不安が交錯している。未来を描きながら現代を問う――小松の思想は、1970年代初頭の日本に"時間の哲学"をもたらしたのである。

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