Saturday, October 18, 2025

街角で目が覚める夜—1977年2月、新宿プチ・モンドの小さな談話(1976〜1977年)

街角で目が覚める夜—1977年2月、新宿プチ・モンドの小さな談話(1976〜1977年)

1977年2月10日、新宿の喫茶プチモンドで交わされた若者たちの談話は、ただの与太話ではなかった。言葉の核は一票の重みである。政治は自分と無関係という冷笑を突き破れるかどうか。語り手は、秩序の内側にいる者ほど動けば世のかたちが変わると促す。無関心という安眠を破って、投票という小さな作業を自分の手元に引き寄せる、その瞬間を描いたささやかな覚醒の記録である。

背景には、前年に露見したロッキード事件がある。米上院での証言を発端に田中角栄の逮捕へ至った同事件は、戦後政治最大級の激震となり、政治は茶番だという言い草を街角の常套句にしてしまった。事件の端緒、田中逮捕の日付、そして長い司法過程は、政治不信の時代空気を裏づける。

同年十二月の衆院選は投票率七三パーセント台。自民党は議席を減らしつつも第一党を維持し、新自由クラブが十七議席を獲得して登場した。旧来勢力の継続と、新しい選択肢の台頭が同時に起きた選挙であり、プチモンドの会話が照らしたのはまさにこの「継続の中の変化」であった。

さらに、経済の地鳴りも若い感性の背後に響いていた。七三年の第一次オイルショックで物価は急騰し、七四年には消費者物価が二割超の上昇、実体経済は戦後初のマイナス成長を経験する。七六年にかけてインフレは鈍化するが、暮らしの手触りは急速に変わった。過剰な理想像よりも身の丈の安心を求める価値観への転換が、政治の場面でも共感の回路を太くしていく。

この夜の言葉は、大それた理屈を掲げない。投票用紙に鉛筆を置く、その一手で世界の見え方がひとしずく変わるという、控えめで実務的な希望である。スキャンダルの陰で冷笑が常識になりかけた時代に、喫茶店の卓上で交わされた小さな反駁。それは、政治を遠い劇場から手の届く生活の机に戻す所作だった。ここにあるのは、声高な改革論ではなく、日常の呼吸に宿る政治の回復である。

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