Friday, October 17, 2025

情と理性のあわいに―1977年、岡潔と東てる美の対話

情と理性のあわいに―1977年、岡潔と東てる美の対話

1977年、日本社会が高度成長から成熟へと移る中、数学者・岡潔と女優・東てる美の対談が週刊誌に掲載された。老学者と若い女優という異色の組み合わせは、当時の「知の大衆化」を象徴する出来事だった。岡は「人は理性ではなく情によって世界を感じる」と説き、東は「情のままに生きると女は損をする」と現実感覚で応じる。理性と感性、哲学と生活が交差するその対話は、硬質な思想が軽やかな言葉に変わる瞬間を映し出していた。大学闘争が終息し、学問が街へ降りてきた70年代後半、メディアは思想を娯楽として扱い始めた。筒井康隆が「抱腹絶倒」と記したのは、権威が崩れ、知識人と芸能人が同じ場で語る時代の軽やかさと危うさを感じ取ったからである。岡潔の「理性を越えた情」という言葉が週刊誌の見出しとな
ること、それ自体が変わりゆく時代の象徴だった。

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