Saturday, October 18, 2025

灯をともす一票―1977年、政治を遠くから近くへ

灯をともす一票―1977年、政治を遠くから近くへ

1977年に掲載されたこの対話形式の記事は、戦後民主主義の成熟期にあって、政治への「再接近」を描いた静かな覚醒の記録である。語り手である筆者はかつて投票を軽視し、「棄権こそ自由な意思の証」と考えていた。だが、ロッキード事件(1976年)による政治不信と、社会の停滞感を背景に、彼は次第にその姿勢を見直していく。「信じられないからこそ関わるしかない」という言葉が象徴するように、諦念の底から芽生えたのは、責任ある自由への転換だった。

1970年代後半の日本政治は、長期政権に対する疲労と、新しい政治勢力の模索が交錯する時期だった。1976年に田中角栄がロッキード事件で逮捕され、国民の政治不信は極に達する。一方で、自由民主党から離脱した田川誠一らが中心となり、新自由クラブが結成される。保守二大勢力の間に立つ"第三の道"として注目を集めたが、理想と現実の狭間で苦悩する姿も同時に露わになった。筆者の対話にも、その「希望と不安」の揺らぎが刻まれている。

記事では、喫茶店の一隅で交わされる静かな語りが印象的だ。政治を語ることがタブー視されていた時代に、若者たちは「生活の延長としての政治」を語り始める。そこにあるのは、思想的闘争ではなく、日常を変えるための小さな実感である。「投票したところで何も変わらない」という呟きに、「変わらないことを知るために投票する」という応答が重なる。

新自由クラブが掲げたのは「政治を生活へ取り戻す」という理念だったが、その理念が届いたのは、こうした庶民の語らいの中にこそあった。都市の片隅で語られた一票の物語は、戦後政治が抱えた重い惰性を、ほんの少しだけ軽くした。信頼を失った政治を、再び自分の言葉で語り直す――それは、1977年という混迷の時代における、市民のささやかな勇気の記録である。

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