Sunday, October 19, 2025

映画 沈黙の果実 杏子(1978–1979年)

映画 沈黙の果実 杏子(1978–1979年)

1978年の暮れ、科学技術館ホールで上映された映画『杏子』は、70年代後半の日本映画が抱えた静かな熱を映した作品である。原作は古井由吉、監督は伴睦人、出演は山口小夜子と石原初音。文学と映像の交差点に立つこの映画は、商業映画の潮流から離れ、人間の内面と沈黙を描こうとした。山口小夜子は当時、世界的モデルとして知られ、彼女の静謐な存在は言葉を超えた詩的な力を持っていた。舞台となった科学技術館ホールという場自体も、映画を興行ではなく"表現"として捉えようとする試みを象徴していた。ゲストには映像作家の龍村仁が参加し、彼ののちのテーマ「生命の律動」にも通じる感覚が漂う。高度成長の終わりとともに、社会は心の空白を抱え始めていた時代。『杏子』はその空白を沈黙の中で照らし出し、
文学と映像がまだ純粋に響き合えた最後の時代の証として、今も記憶に残る。

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