Sunday, October 19, 2025

生活排水の時代 —1990年代初頭、東京湾を覆った生活の濁流—

生活排水の時代 —1990年代初頭、東京湾を覆った生活の濁流—
1990年代、日本の環境問題は工場排水から家庭排水へと主戦場を移した。東京湾では未処理の生活雑排水が汚染源の約四割を占め、富栄養化が進行。赤潮・青潮が頻発し、魚介類の大量死が日常化していた。下水道整備率は全国で45%にとどまり、都市開発の急速な拡大に対し、処理インフラが追いついていなかった。洗剤やシャンプーに含まれるリン酸塩・界面活性剤が汚染を助長し、バブル期の"快適な生活"が皮肉にも水を汚した。こうした中、1994年の浄化槽法改正により「合併処理浄化槽」が導入され、し尿と生活排水を同時に処理する新技術が普及し始めた。特に岡山県児島湖流域では条例で設置が義務づけられ、地域ぐるみの水質保全が進展。行政・企業・市民が連携する分散型の取り組みは、平成初期の新しい環境理念�
�示すものだった。家庭の流し台が公害時代の煙突に代わり、環境責任が個人に降りてきた時代の象徴である。

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