地下鉄のゴミと治安意識 -1995年・都市の安全と公共空間の変容-
1995年3月の地下鉄サリン事件後、営団地下鉄は全駅からゴミ箱を撤去した。危険物の持ち込み防止を目的としたこの対策により、駅構内のゴミ量は69トンから16トンに激減したが、一方でトイレなどへの不法投棄が増えた。安全確保が市民行動を変える象徴的な出来事となり、公共空間の「清潔」と「安全」が新たな倫理として結び付いた。当時の社会は、オウム事件による不安と経済停滞が重なり、「日常の安全をどう守るか」が社会的テーマとなっていた。2000年代には透明ゴミ箱の再設置が進み、利便と防犯の折り合いを模索したが、海外テロを受け再び撤去の動きも生じた。ゴミ箱の設置・撤去は、単なる清掃政策ではなく、社会が恐怖をどう受け止め、秩序を再構築するかを映す「都市の鏡」となった。
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