長崎県小長井町の風力発電 ― 2004年
2000年代初頭の日本は、京都議定書の発効を目前に控え、温室効果ガス削減が国家的課題となっていた。政府は2002年に議定書を受諾し、2003年度からは電気事業者に一定割合の新エネルギー利用を義務づけるRPS制度が施行され、風力発電やバイオマス発電といった再生可能エネルギー導入を後押しした。再エネ市場がまだ黎明期にあり高コスト・不安定との批判も根強かったが、自治体が独自に挑戦する気運が高まりつつあった時代である。
長崎県小長井町(2005年に諫早市へ合併)は、有明海に面する風況の良い立地を活かし、段階的に風力発電を整備した。1998年に三菱重工製300kWを試験導入し、その後2000年と2002年にデンマークVestas社製600kWを2基設置、合計出力1500kWの町営風力発電所を構築した。当初は実証実験色も濃かったが、2003年度には3基がフル稼働し、売電収益は過去最高の2000万円超に達した。
この発電電力は、町振興公社が運営する山茶花高原ピクニックパークやハーブ園で活用され、余剰分は九州電力に売却された。事業は観光資源や環境学習と連動し、2003年度には14団体250人以上が視察に訪れるなど、教育・交流の場としても成果を上げた。
小長井町の事例は、RPS制度初期における自治体主導の先駆的モデルとして注目され、地域資源を活用した小規模分散型エネルギーの可能性を示した。これは後の2012年の固定価格買取制度導入以前に、地方が主体的に再エネを担った象徴的な実践であり、環境と地域経済の両立を模索する動きの先鞭となった。
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