谷の水と風が紡ぐ 地域再生の物語 ― 2004年5月
2004年前後、日本は温暖化対策に向け大きな節目を迎えていた。京都議定書の発効を目前に控え、国も自治体も再生可能エネルギーをどのように導入するかに知恵を絞っていた。農山村は過疎化や財政難に直面し、都市近郊では土地利用の転換が問われる。そんな時代のなかで、地方が小さな資源に光を当て、自らの未来を切り開こうとする試みが生まれた。
熊本県清和村は、既存の砂防堰堤を生かし小水力発電に挑んだ。出力は190kW、有効落差は14.38m。水車はクロスフロー型で、2005年春には清和水力発電所として稼働を始めた。電力は清和文楽館や道の駅など地域施設を中心に活用され、余剰分は系統に売電。不足時は買電で補い、村の現実に根ざした運用が続いた。売電収入は年間900万円規模に達し、地域財源として息づいた。小さな村営の力が、農と観光を結び直す循環の軸となった。
一方、長崎県小長井町では、風の通り道を生かした風力発電が地域に風景を変えた。三基の風車は2003年度に過去最高の2000万円超の売電収益をあげ、九州電力への売電で地域経済を支えた。町振興公社の運営するハーブ園やピクニックパークにも電力は活用され、視察や観光の拠点にもなった。十四団体二百五十人以上が訪れ、環境学習の現場としても注目を浴びた。
これらは、国の制度が整う前夜に生まれた地域の先駆けだった。RPS制度が走り始め、固定価格買取制度がまだ影も形もない時代に、小さな自治体が資源の可能性を見つめた。谷の水が村を回し、海風が町を支える。自然と共に歩みながら地域を立て直そうとしたその姿は、後に全国で広がる「ご当地エネルギー」の萌芽であった。
小さな営みは、やがて大きな流れに合流していく。谷の水と風の物語は、2004年の地方が未来へ手渡した確かな息吹だった。
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