埼玉県小川町と滋賀県愛東町のバイオマス利用 ― 地域循環が芽吹いた初期モデル ― 2004年ごろ
2000年代初頭、日本は「バイオマス・ニッポン総合戦略」(2002年閣議決定)で、未利用バイオマスの回収・変換・地域内利用を柱に据え、2004年からは自治体主導の「バイオマスタウン」形成を推進し始めました。京都議定書の発効(2005年)を控え、分散型エネルギーと資源循環の両立を地域から実装する動きが各地で起点を得た時期です。
その流れを先導した象徴例の一つが、滋賀県・旧愛東町(現・東近江市愛東地区)の「菜の花エコプロジェクト」です。1998年に始まった取組は、菜種の栽培→搾油→食用利用→廃食油回収→石けん・バイオディーゼル燃料(BDF)化、という"地域内の油の輪"を住民参加で回すもので、2005年には拠点施設「あいとうエコプラザ菜の花館」が整備され、回収・精製・学習機能を備えた地域循環のモデルとして定着しました。現在も同館は、家庭や学校から集めた廃食油をBDFやリサイクルせっけんに変え、地場の菜種油ブランド「菜ばかり」とあわせて循環を可視化しています。
もう一つの好例が、埼玉県小川町です。小川町では有機農業の広がりと併走しながら、生ごみや紙ごみなどの有機物をメタン発酵で資源化する実証が進み、NPO「小川町風土活用センター」が2006年度に"町内500世帯規模の地場産バイオガスプラント"運用をめざす事業に採択されました。生ごみ→バイオガス→発電・熱利用という地域内循環を、住民参加型で制度設計した点が当時として先進的でした。
その後も小川町では、廃食用油の拠点回収を行い、BDFや石けんへの再資源化を案内するなど、"燃料と資源は地域で回す"実務が続けられています。加えて、広域では乾式メタン発酵による発電施設の活用が進み、焼却依存を減らす循環インフラとして機能しています。こうした仕組みは、初期の分散型エネルギー政策の理念を具体化する足場になりました。
まとめると、愛東町は菜種と廃食油を核に「油の地域循環」を、小川町は生ごみ・古紙・廃食油を束ねた「複合型の地域循環」をそれぞれ早期に形にしました。いずれも、国の戦略が掲げた分散型・参加型の方向性を、自治体・NPO・住民の協働で実装した"初期モデル"であり、その後のバイオマスタウンや地域循環共生圏の普及を先取りした取り組みだったと言えます。
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