気候変動とスターンレビュー-2007年1月
2006年10月に発表された英国政府の「スターンレビュー」は、気候変動の経済的影響を詳細に分析した報告書です。
同レビューによると、温室効果ガス排出を抑制しなければ、今世紀末までに地球の平均気温が最大5℃上昇し、
これに伴う経済的損失は世界GDPの5%から20%に達すると予測されています。
特に、北極圏のグリーンランド氷床の融解やシベリア永久凍土の溶解が進むと、生態系や人類に壊滅的な影響を与える可能性があります。
スターンレビューでは、二酸化炭素排出相当量(CO₂e)が産業革命以前の280ppmから現在は430ppmに増加し、
毎年2ppmのペースで上昇していると指摘しています。
これを450〜550ppmに抑えるためには、炭素価格の設定(排出権取引、炭素税)、低炭素技術の研究開発・普及、省エネルギー推進を柱とする政策が不可欠であると提言しました。
また、英国では排出権取引市場の拡大を進め、ロンドンがこの分野の中心地として機能しています。
さらに、エネルギー効率の高い技術の開発が進み、BPやシェルなどの企業が低炭素技術を活用した製品やサービスの市場開拓を推進しています。
レビューでは、これらの取り組みが新たな雇用を創出し、経済成長を加速させると評価されています。
特に、EUは2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で20%削減する目標を掲げ、欧州の産業界も積極的に対応しています。
こうした政策が先進国を中心に進む一方で、途上国の取り組みが不十分である点も指摘されており、国際的な協力体制の構築が求められています。
スターンレビューの予測の検証
スターンレビューは、気候変動が経済に与える影響を強調し、早期の対策の必要性を訴えました。
しかし、2023年の分析によれば、同レビューが予測した気候関連の経済損失は実際には増加しておらず、
GDPに対する被害額は横ばいか減少傾向にあります。
これは、台風やハリケーンの激甚化が観測されていないことなどが要因とされています。
このため、スターンレビューの予測は過大であったとの指摘があります。
一方で、気候変動の影響は地域や分野によって異なり、農業や生態系への影響、海面上昇による被害など、
経済的損失が顕在化している分野も存在します。
また、気候変動対策としての再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率化の推進は、
経済成長や雇用創出に寄与しているとの報告もあります。
総じて、スターンレビューの予測は一部過大であったとされますが、
気候変動のリスクは依然として存在し、引き続き対策が求められています。
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