Friday, October 17, 2025

森と人をつなぐ手 ― 北杜市の間伐材再生プロジェクト(2007年)

森と人をつなぐ手 ― 北杜市の間伐材再生プロジェクト(2007年)

2000年代半ば、日本の人工林(戦後造林のスギ・ヒノキ)が一斉に主伐期を迎えた一方、輸入材価格に押されて国産材需要が低迷し、手入れ不足が各地で深刻化していた。政府・林野庁は2005年から国産材利用を促す「木づかい運動」を展開し、木造・木質化の推進や生活の中で木に置き換える行動を呼びかけた。これは森林の手入れ不足と土砂災害リスク、そして吸収源対策を同時に解決する"国民運動"として位置づけられている。

2007年前後、こうした国の流れと京都議定書下の吸収源対策の必要性を背景に、山梨県北杜市は地域主体の間伐材活用スキームに踏み切った。森林所有者と木工家・家具職人・建築関係者といった利用者の双方を登録して直接マッチングする仕組みを整え、放置間伐材の再流通を促進。首都圏に近い地の利を活かし、都市のクラフト文化や建築需要と結びつけることで、燃料・廃棄に偏りがちだった材の価値を"用の美"として再発見する狙いがあった。

さらに2009年には林野庁が「森林・林業再生プラン」を策定し、木材自給率50%以上をめざす政策へと本格転換。施業の集約化、人材育成、川下の加工・流通整備を柱に、コンクリート社会から"木の社会"への転換を掲げた。地域で間伐材の供給・利用を循環させる北杜市的な発想は、この国の政策潮流とも軌を一にするものであった。

同時期、自治体レベルでも森林環境税の先行導入が広がり、石川県では2007年度から税収を間伐・水源林整備等へ充当。荒廃林の放置が土砂災害リスクを高める事実を住民と共有し、ツアーや普及活動を通じて"地域で森を守る"基盤を整えた。北杜市でも近年は森林環境譲与税を活用し、地域の森林整備と人材確保に充当しており、2007年の試みは"地域の森を地域で循環させる"仕組みに連なっている。

北杜市の仲介制度は、国産材利用促進と吸収源対策、地域文化の再編集という三つの文脈が重なった結節点だった。都市近接という地理性を活かし、間伐から流通、木工・建築、そして地域ブランド化へと続く小さな循環を積み上げる。その"地に足のついたグリーン・デザイン"は、今日のグリーンウッドワークや公共建築の木質化にも通じている。

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