Wednesday, October 15, 2025

森林環境税導入に見る“共同体的環境倫理”(2007年前後)

森林環境税導入に見る"共同体的環境倫理"(2007年前後)

2000年代半ば、日本の地方自治体では「地域による環境保全」のあり方が見直され始めていた。バブル期以降、都市部の開発と過疎化の進行により、森林の管理が困難となり、間伐や植林が放置される地域が急増していた。そうした中で、石川県が導入した「森林環境税」は、住民が自らの負担によって地域の森林を再生・維持しようという発想に基づいていた。

この制度では、個人や企業に一定額を課税し、その財源で間伐・植林・林道整備などを行う。加賀・能登地域では間伐量を従来の約4倍に拡大し、森林の再生と防災・水源保全を目的とする地域計画が進められた。背景には、国主導の「全国森林計画」が地域ごとの実情に十分対応していないという批判があり、石川県の取り組みはその対抗的モデルとされた。

この政策の思想的核心は、"自然を公共財として守る共同体倫理"にある。つまり、森林を「国家の資産」ではなく「地域の共有資本」として捉える視点だ。地域住民が自らの手で環境を守る仕組みは、明治以降の中央集権的自然行政に対する新たな自治の萌芽ともいえる。

森林環境税はその後、他県にも波及し、やがて全国規模での「森林環境譲与税」制度につながる。石川県の試みは、地方が環境政策の主体となる転換点を示したものであり、"環境と自治の融合"という日本的な公共思想の再生を象徴していた。

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