Friday, October 17, 2025

灰と風が渡る国境 ― 北京・黄砂と酸性雨支援の風景(2007年)

灰と風が渡る国境 ― 北京・黄砂と酸性雨支援の風景(2007年)

2000年代半ば、中国は急激な工業化と都市化を経て、大気汚染と黄砂が国内外に影響を及ぼす国際問題へと変貌しつつあった。北京を中心とする都市群では、排煙ガスや煤塵が雨に溶け込み酸性雨をもたらし、建造物や植生を浸食。黄砂は春先になると黄褐色の空を覆い、呼吸器疾患を誘発する厄介な風となった。こうした大気環境劣化は、日本の東北・北海道、あるいは朝鮮半島にも被害を及ぼすため、東アジア全体の問題として意識されていた。

このような課題を背景に、日本政府は2007年、約7億9300万円の無償資金協力を決定。北京を中心に酸性雨・黄砂観測体制の拡充、モニタリング機材の設置、予報モデルの研究支援を行った。日中両国だけでなく、モンゴル・韓国を巻き込んだ東アジア連携体制の構築も目指された。1998年に始まった東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)は、日本が中心となって技術支援と情報共有を牽引しており、この財政援助はその信頼基盤を強化するものだった。

黄砂については、2003年からADB・GEF支援の下で「アジア黄砂対策プロジェクト」が進行しており、中国・モンゴルで観測基地や予報技術の整備が進められていた。日本はこれまで自国技術と資金を提供することで、域内大気環境の透明化と政策基盤強化を促進してきた。

この支援措置は、単なる環境援助ではない。隣国の空気と湿気、風の往来を共に管理する"環境外交"の表明であり、科学的信頼の上に成り立つ地域共同体の構築だった。灰と風の距離を詰めて、共に未来へ向かう取り組みの風景。

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