花魁道中の途中での声掛け―江戸の粋が交錯する祝祭の場（江戸時代）

花魁道中の途中での声掛け―江戸の粋が交錯する祝祭の場（江戸時代）

江戸時代の吉原における花魁道中は、単なる遊女の外出ではなく、一種の「行列芸」であった。豪奢な衣装と高下駄を履いた花魁が、禿（かむろ）や新造を従え、仲の町をゆっくりと進む姿は、まさに江戸の絵巻そのものである。彼女たちは扇や手拭を巧みに使い、歩みごとに体をわずかにひねり、優雅な仕草で人々を魅了した。

見物人の中には、遠方から訪れた旅人や商人も多く、「おい、こっちを向いておくれ！」と声を上げる者もいたという。その声に花魁が扇を軽く動かして応じる光景は、浮世絵にも数多く描かれた。直接言葉を交わすことは礼を欠くとされたため、目線と扇の動きによる"無言の会話"が粋の象徴とされたのである。

この花魁道中は、幕府の規制のもとでありながら、町人文化の誇りとして発展した。江戸後期には「見せる遊女」の存在が定着し、彼女たちは芸と装いを競い合い、道中そのものが興行の一部と化した。とりわけ吉原の夜桜や祭礼の日には、見物客が両側にびっしりと並び、花魁が通るたびに「よっ、日之出太夫！」などの掛け声が飛んだと伝えられている。

このような情景は、単なる歓楽ではなく、江戸庶民が一夜の夢と美意識を共有する舞台でもあった。花魁の一挙手一投足には、職人や商人たちの憧れ、そして女性たちの装いや生き方への羨望が映し出されていたのである。