Tuesday, October 14, 2025

黒沢のおこない―一九五〇年代の山村の祈り(一九五〇年代)

黒沢のおこない―一九五〇年代の山村の祈り(一九五〇年代)
愛知県鳳来町黒沢の阿弥陀堂で行われた「おこない」は、七戸の男たちが集まり、阿弥陀如来に舞を奉じて豊作と無病息災を祈る祭りであった。鎌倉時代に始まり、戦中に中断したが一九五三年に再開され、昭和五十年代まで続いた。祭りは冬の雪深い山村の共同体を結ぶ重要な行事で、村人たちは「今年は誰が舞うか」「雪が降ったらどうするか」と相談しながら続けた。やがて過疎化が進み、七戸のうち五戸が離村し、一戸のみとなっても奉納を試みた。戦後の高度経済成長期に多くの若者が都市へ流出し、農業や焼畑は衰退、山村社会は急速に変化した。そんな中で「おこない」は、古い信仰と共同体の絆を守ろうとする象徴であり、雪に閉ざされた谷間に響いた太鼓の音は、消えゆく山の祈りの記憶として今も語り継がれてい
る。

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