山と水の境界に祈る-種子島南部の山神信仰（江戸後期-昭和中期）

山と水の境界に祈る-種子島南部の山神信仰（江戸後期-昭和中期）
種子島南部では、山神を集落の守護神とする信仰が根づいていた。山神は水の神ともされ、上流の小川・中腹の墓地・下流の耕地が一体化した構造をもち、水を"命の源"とみなす自然観のもとに防災と祈りが融合していた。山裾の祠や竹林の中に鎮座する山神社は、風水的に"気の通り道"にあり、豪雨時の水流を分散させる役割を担っていた。

集落では洪水対策の空堀を清掃し掘り直す祭祀が行われ、山神祭は防災作業と信仰が重なる行事となった。霧島山系や屋久島と同様、山を"水配りの神"とみなす祈雨の伝統があり、自然と対話して生きる姿勢が共通して見られる。

昭和初期までは水害が多く、堤防が未整備の時代には山神信仰が防災意識そのものだった。戦後の開墾や宅地化で祠は減少したが、古老の語りには「山の神が水を見守る」という信念が残り、山と水を結ぶ民俗的環境哲学として受け継がれている。