風俗の断層―銀座の夜を語る・昭和四十二年七月

風俗の断層―銀座の夜を語る・昭和四十二年七月

昭和四十二年、高度経済成長が頂点に達し銀座は繁栄の象徴でありながら変質の時を迎えていた。戦後の焼け跡から立ち上がった街はネオンと新しいビルに覆われ、夜の光景は華やかに装いを変えた。しかし老舗バーの経営者の目には、その輝きがどこか浅く見えていた。かつて銀座には客と店主が言葉を交わし、沈黙の中に礼節と粋があった。今では若者文化の波に押され、静けさよりも騒ぎが夜を支配する。彼は言う、「昔の客は一杯のウイスキーに夜を預けたが、今の客は騒ぐために来る」と。戦後の貧しさの中にあった品格と余白が、経済の速度の中で失われていったのである。銀座のバーやクラブはかつて政治家や作家、詩人が交差する語りの場であったが、その会話の深みも薄れた。繁栄の裏に生まれた均質化の波が、街
の表情から人間の呼吸を奪っていく。老舗の主人の言葉は昭和の都市が粋から消費へと変わる、その瞬間を刻む静かな証言であった。