夜明け前の問い 若者と国家・昭和四十二年七月

夜明け前の問い 若者と国家・昭和四十二年七月

昭和四十二年、日本は高度経済成長の光に包まれながら、若者たちはその眩しさの中で深い影を感じていた。大学進学率の上昇とともに学生は増えたが、教育は制度化し、社会は管理の色を濃くした。彼らの胸に芽生えたのは「国家と個人の関係」をめぐる素朴だが切実な問いであった。同年十月、羽田空港での反戦デモでは佐藤栄作首相の南ベトナム訪問に抗議する学生と機動隊が衝突し、山崎博昭が死亡する。国家という巨大な存在に対し、若者たちは自らの声をどう届かせるかを問うたのである。翌年以降、大学紛争が全国へ波及し、全共闘運動の時代が始まるが、この時期の議論はまだ純粋な思想的模索だった。国家は誰のためにあり、自由はどこにあるのか。彼らの言葉は怒りではなく問いから始まる抵抗だった。豊かさの
裏で失われていく人間の尊厳と自由を取り戻そうとする願いが、静かな対話の中に燃えていた。昭和四十二年は、嵐の前の夜明け前、その息づかいを記した時代である。