末摘花という、世界一短いエロチック文学の遊び心 1970年代の軽やかな性表現文化の一断片
雑誌の小さな企画として紹介されている「末摘花」は、川柳の末番句だけを集めた"世界一短いエロチック句集"という触れ込みがまず愉快で、1970年代らしい肩の力の抜けたエロス感覚をよく表している。たった数文字の川柳に、ほのかな色気やニヤリとする気配だけを残し、あとは読者の想像に委ねてしまう。長々と説明しないことで、むしろ余白の部分に想像がふくらむ。その短さを売りにしているところが、企画自体のユーモアでもあり、当時の都市文化のしゃれでもあった。
この末摘花という名称には、実はかなり歴史のある文脈が重なっている。江戸時代には、川柳の中でも恋愛や性風俗、下ネタを詠んだ句をバレ句と呼び、それらだけを集めた川柳集「誹風末摘花」が刊行されていた。初編は1776年に出てその後も続編が刊行されるほど人気を博したと伝えられる。バレはみだらなことを指す俗語で、つまり誹風末摘花はエロ川柳だけを集めた本だったわけである。1970年代の雑誌がエロチックな末番句企画に末摘花という名をつけるのは、この江戸以来の伝統への遊び心あるオマージュといえる。
さらに末摘花という語は源氏物語に登場する不美人の姫君の呼び名に由来し、紅花の別名から長く垂れた鼻の赤さに結びつけられている。この名前が後にエロ川柳集のタイトルになり、昭和には艶笑川柳本の呼称としても受け継がれた。こうした系譜を踏まえると、世界一短いエロチック句集という洒落た企画は、江戸のバレ句から昭和のエロ川柳に至る軽妙な伝統を、ミニマルな現代感覚に落とし込んだ試みでもあった。
当時の日本社会は、性表現をめぐる規制と緩和の狭間にあり、露骨さより短い言葉のほのめかしに洒落を感じる空気が強かった。数文字で色気を伝える末摘花は、そうした都会的な成熟と笑いのセンスを象徴し、1970年代の雑誌文化が持っていた自由さと柔らかな遊び心をいまに伝えている。
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