海に差すもう一つの光 漁業と再生可能エネルギーが出会うとき ハイブリッド漁船の試み(2008年12月)
漁業と再生可能エネルギーを結びつけたハイブリッド漁船技術は2000年代後半に日本の沿岸漁業が直面していた構造的な危機から生まれた試みである。2008年前後日本では原油価格の高騰が続き漁業者にとって燃油費は経営を左右する最大の負担となっていた。特に沿岸の小規模漁業では燃料価格の上昇がそのまま廃業につながる例も少なくなく省エネルギー化は生存条件に近い課題であった。
こうした状況の中山口県周防大島町では漁業の衰退と担い手の高齢化が進み地域経済の維持そのものが問われていた。瀬戸内海に面するこの地域では一本釣り漁業を中心とした小型漁船が多く航行距離は比較的短い一方で漁場内での細かな移動や待機時間が長いという操業上の特徴があった。この低速移動と短距離移動の多さは再生可能エネルギーを補助的に導入する余地を持つ条件でもあった。
大島商船高等専門学校と民間七社が共同で開発したハイブリッド漁船はこうした現場の実態に即して設計された技術である。船体には出力四百四十ワットの太陽電池が搭載され航行のすべてを太陽光に依存するのではなく従来のディーゼルエンジンと組み合わせる方式が採られた。漁場までの往復など安定した出力が必要な場面では軽油を使用し漁場内でのポイント移動や低速走行時には太陽光発電による電力を活用する仕組みである。
この方式の利点は既存の漁船構造を大きく変えることなく省エネルギー化を実現できる点にあった。当時の蓄電池性能やコストを考えると完全な電動化は現実的ではなかったが太陽光を補助動力として取り入れることで燃料消費を着実に削減することが可能となった。実証実験では燃費が約二十四パーセント改善される結果が確認され漁業者の経済的負担軽減に直結する効果が示された。
この技術は環境面でも重要な意味を持っていた。瀬戸内海では水質保全や生態系保護が長年の課題であり排出ガスや燃料使用量の削減は漁場環境の維持とも密接に関係していた。漁業者自身が環境負荷を抑える技術を導入することは資源管理型漁業への意識転換を象徴する動きでもあった。
ハイブリッド漁船は漁業と再生可能エネルギーを対立させるのではなく現実的な折衷として結びつけた点に特徴がある。2000年代後半日本の地方沿岸で進められたこの試みは脱炭素という言葉が一般化する以前に現場の切実な必要性から生まれた省エネルギー技術であり漁業の持続性を支える静かな技術革新の一例であった。
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