Thursday, December 18, 2025

水脈をつなぎなおす声 水資源の揺らぎと未来への選択 2020年代

水脈をつなぎなおす声 水資源の揺らぎと未来への選択 2020年代

水の確保は、かつて「当たり前の前提」として語られてきた。しかし気候変動とインフラ老朽化が重なったいま、その前提そのものが静かに崩れつつある。降雨パターンは乱れ、豪雨と渇水が同じ流域で交互に現れ、ダムの枯渇回数や枯渇日数の増加が懸念されている。日本でも福岡渇水や列島渇水などの教訓に加え、将来は気候変動の影響で無降水日が増え、渇水リスクが一段と高まると予測されている。

一方で、水を運ぶ血管である水道管やダム・浄水場の設備は、高度経済成長期に整備されたものが多く、法定耐用年数40年を超えた管路が全国で増え続けている。更新率は1パーセントに満たず、このペースでは全て更新するのに100年以上かかるとの試算もある。老朽管路は漏水や道路陥没、地震時の断水リスクを高め、「確保したはずの水」が途中で失われていく構造を生み出している。

こうした状況で求められているのは、渇水のたびに一時的な取水制限をかけるだけの対応ではない。漏水対策によって有効水量を増やし、需要管理を通じて「使い方そのもの」を変えていく発想が重要になる。国土交通省の水資源政策や「日本の水資源の現況」では、渇水リスクの顕在化に加え、水災害の激甚化や水インフラの老朽化、産業構造の変化による水需要の変動など、多様なリスクを同時に扱う「リスク管理型」の水資源政策が打ち出されている。

その鍵の一つが、自治体間の広域連携である。小規模な水道事業者だけでは更新費用も人材も足りず、老朽化に追いつけない。広域で施設や管路を計画的に更新し、災害時には相互に融通し合う仕組みが、水の安全保障を支える土台となる。同時に、流域全体で関係者が協働する「流域総合水管理」という考え方も注目されている。水源の森、農業用水、都市の上水道を一体のシステムとしてとらえ、上流から下流までを通した管理と合意形成を目指す枠組みである。

もう一つの柱が、市民参加型の節水と利用の見直しだ。熊本市の「節水市民運動」や「わくわく節水倶楽部」、各地の節水月間などでは、家庭での節水アイデアの共有や、参加者の水道使用量を「見える化」する社会実験が続けられている。補助制度による節水器具の普及や、節水テーマソング、ステッカーといった工夫は、一見ささやかだが、生活の手触りに近いところから水の価値を実感させる試みでもある。

水の確保が困難になる時代に問われているのは、「どこからどれだけ取るか」だけではない。「どれだけ無駄なく届けるか」「どう分かち合うか」「どこまで自然に返すか」という問いを、行政と企業、市民が一緒に引き受けられるかどうかである。水脈をつなぎなおすという言葉には、地下に眠る管路や水源だけでなく、人と人、人と流域の関係を結び直すという意味も重ねられている。水をめぐる選択は、これからの地域のかたちそのものを映し出す鏡になりつつある。

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