技能実習制度の問題―2010年代の死と労働の影
2010年から2018年のわずか9年間に174人の外国人技能実習生が死亡したという事実は、日本社会の暗部を照らし出す衝撃的な数字であった。死因には脳や心臓疾患、過労死、さらには自殺が含まれており、背景には長時間労働や劣悪な職場環境が横たわっていた。技能実習制度は本来「途上国への技術移転」を目的として1993年に創設されたが、実態は人手不足を補う低賃金労働力の受け皿と化し、多くの外国人労働者が権利を奪われたまま働かされていた。
2010年代はリーマン・ショック後の景気停滞や東日本大震災の復興需要、さらに深刻化する人手不足が重なり、建設業や農業、介護現場などで外国人労働力への依存が加速した。だが、受け入れ先の監督は不十分で、パスポートの取り上げ、残業代未払い、労災隠しといった人権侵害が頻発。国際労働機関(ILO)からも「現代の奴隷労働」と批判された。制度の矛盾は社会問題化し、国会でも度々取り上げられた。
2017年には「外国人技能実習適正実施法」が施行され、監理団体の許可制や第三者による監査が導入された。しかし、それでも現場の改善は遅々として進まず、過労死や失踪が相次いだ。2018年には失踪実習生が9000人を超え、その多くが不法就労に流れる構造が明らかになった。
この問題は、単なる外国人労働政策の失敗ではなく、日本社会が「人手不足を誰に担わせるのか」「労働者の命と権利をどう守るのか」という根本的課題を突きつけている。技能実習制度を温存するのか、あるいは労働者として正面から受け入れる仕組みに転換するのか。2010年代後半は、その岐路に立たされていたのである。
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