Wednesday, March 26, 2025

海が語る温暖化の物語―沿岸に刻まれた変動の記憶(2007年・和歌山から津軽まで)

海が語る温暖化の物語―沿岸に刻まれた変動の記憶(2007年・和歌山から津軽まで)

2007年、日本列島の海が静かに、しかし確実にその表情を変えつつあることが明らかになった。気象庁の解析によって、日本周辺の海域は世界平均を上回る速度で海面水温を上昇させており、その影響は漁業や海洋生態系に深く刻まれ始めていた。冬と秋に顕著な海水温の上昇は、特に沿岸漁業に携わる人々の暮らしに影を落としている。

和歌山県紀南地方では、海の温度の変化がサバの姿を変えた。かつては漁業者の柱であったマサバの漁獲量が減少し、代わりにゴマサバが海にあふれるようになった。その背景には、水深100メートルの海水温が15度台から16度、さらには17度台へと、短期間で上昇した事実がある。2005年にはゴマサバが和歌山県のサバ漁獲量の8割を占めるに至ったが、市場価格はマサバの半値。変わりゆく海の恵みに、漁師たちは戸惑いと苦悩を抱えながら日々の仕事を続けている。

北の青森県では、さらに厳しい現実が海に広がっていた。冬期の水温上昇は、ノリの養殖に致命的な打撃を与えた。かつて豊かだった養殖場が壊滅的な状況に陥り、冬に起こるはずのなかった赤潮が発生する。津軽海峡では「磯焼け」と呼ばれる異常現象が広がり、海底に海藻が育たず、まるで命を失ったように岩肌だけがむき出しになる。この現象は、目に見えるかたちで海の変化を伝えてくる。

大間沖では、かつて誇り高く漁獲されていた寒流系の海藻、マコンブやガゴメコンブが次第に姿を消し、暖流系の海藻がその隙間を埋めるように広がっていた。これらの変化は、水温の上昇という単純な事実の積み重ねが、海の生態を根底から変え、地域の漁業と生活に深く食い込んでいくことを物語っている。

さらに南、岡山県でも、海のぬくもりがノリの養殖をむしばむ。冬の海が、かつてないほどの温度を記録した年、2.2度もの水温上昇は、養殖場にとっては死活問題であった。波間に揺れる緑の葉が、いつものように育たず、採れない、売れない、先が見えないという声が、静かに海辺にこだましている。

これらの現象はすべて、ただの気象的な偶然ではない。それは、気温の上昇が海へと波及し、海の構造を変え、そこに生きる命を揺さぶり、ついには人間の暮らしをも揺るがすという連鎖の物語である。日本の沿岸は今、そうした物語の舞台となっている。

関連情報(出典):

気象庁「海面水温の長期変化傾向」
農林水産省「漁業における地球温暖化の影響」
水産研究・教育機構「水産資源と気候変動」
環境省「気候変動影響評価報告書(生態系・農林水産編)」

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