Friday, April 11, 2025

赤い鳥が見ていたもの 2014年初頭の監視と抵抗の物語

赤い鳥が見ていたもの 2014年初頭の監視と抵抗の物語

2014年1月。世界中のスマートフォンで遊ばれていた人気ゲーム「アングリーバード」が、突然、監視国家の象徴として取り上げられるという異例の事態が起こった。アメリカ国家安全保障局(NSA)とイギリスの通信傍受機関が、スマートフォンアプリ内にある広告の仕組みを利用し、一般利用者の個人情報を密かに収集していたことが、報道によって明らかになったのだ。

収集されていたのは現在地 年齢 性別 家族構成 趣味嗜好や政治的傾向といった繊細な情報に加えて SNSの投稿内容や写真に含まれる位置情報 連絡先データにまで及んでいた。ゲームに夢中になる指の動きの背後で 利用者の生活の断片が静かに読み取られていたのである。

ゲームを開発したRovio社は 政府機関に情報を直接提供したことはないと否定したが 広告会社が経由してどのような情報を第三者に渡していたかについては完全には明らかにされなかった。気づかぬうちに「遊び」が「監視の入り口」となっていた現実に 世界はざわめいた。

そしてこの報道から2日後の1月29日 事態はさらに異常な方向へと展開した。「アングリーバード」の公式ウェブサイトが何者かによって改ざんされ トップページには「Spying Birds」という皮肉なタイトルが現れた。赤い鳥は怒っていたのではない。見ていたのだ。そして その視線を操っていた者たちへの怒りが 形を変えて返ってきた。

このハッキングは シリア政府を支持するハッカー集団「シリア電子軍(Syrian Electronic Army)」の仕業とされている。彼らは2011年から活動を開始し アメリカやヨーロッパ 日本の報道機関や政府機関 企業などに対して次々とサイバー攻撃を仕掛けてきた集団である。

シリア電子軍は 報道機関のTwitterアカウントを乗っ取り ホワイトハウスで爆発があったという虚偽情報を発信し 金融市場を一時的に混乱させたことがある。また CNNやワシントン・ポスト ニューヨーク・タイムズのサイト改ざん 米海兵隊のウェブサイトへの侵入 Microsoftのサービスアカウントへの不正アクセス 日本国内の大手企業サイトへの攻撃など その行動範囲は国境を超えていた。

彼らの行為は破壊だけを目的としたものではない。情報の裏側にある意図や偏りを暴き 国家の苦境や戦争の現実を デジタルの海を越えて伝えようとするものであった。銃を使わず コードと画面を武器にした 別種の戦いだった。

2014年初頭 アングリーバードは単なるゲームではなくなった。赤い鳥が飛んだ先には もはや敵の塔ではなく 情報という見えない壁が立ちはだかっていた。そしてその壁を 監視する者と抗う者が それぞれの手段で崩そうとしていた。

【関連情報】
・2014年1月27日付け報道:NSAとGCHQによる情報収集の詳細はスノーデン氏による内部告発資料に基づく。
・情報収集対象:位置情報 年齢 性別 性的指向 婚姻状況 思想傾向 写真のExif情報 SNS投稿 連絡先。
・スパイ機能:スマートフォン用の諜報ツール群(電源制御 音声収集 位置追跡 隠蔽)。
・2014年1月29日:アングリーバード公式サイト改ざん「Spying Birds」に書き換え。
・シリア電子軍(SEA):2011年より活動 報道機関やSNSを標的に数々の乗っ取り改ざんを実行。
・代表的事件:2013年4月AP通信乗っ取り 2013年8月報道各社改ざん 2013年9月米軍サイト改ざん 2014年1月Skype不正アクセス 2014年11月日本企業への攻撃。

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