■ 日本ヘルス工業は、1953年の発足以来、主に下水道終末処理場の総合管理を柱に、全国300箇所で自治体などから委託された事業を展開している。
現在、全国の下水道の運営を民間委託されているのは約60%だが、うち約3割を同社が占める。
近年は環境保全意識の高まりを背景に、業務内容も廃水処理システム「アクビック」の開発など、「水と環境のスペシャリスト集団」としての活動の幅を広げつつある。
2代目として社長に就任して8年、廃水処理関連では最大手企業に成長した同社の榊原秀明社長を訪ね、お話を伺った。
●処理場の運営・管理ノウハウを活用した「アクビック」。
同社が環境分野で業務を拡大するひとつの転機となったのが、90年に開発した中規模廃水処理システム「アクビック」。
「アクビックはわが社が40年にわたって下水道終末処理場で培ってきた活性汚泥法(微生物による汚泥の分解)のノウハウを活かしたブランド。
従来までの廃水処理プラントは、生物廃水処理法を採用しているにもかかわらず、ハード中心の考え方で、生物処理というソフト面の重要性があまり認められてこなかった。
近年ようやくソフトの重要性が認められるようになり、わが社が確立したソフトの技術をプラントというハードにフィードバックすることができるようになってきたからだと思う」。
アクビックは主に植物油の混じった廃水を微生物によって浄化する。
90年7月に千葉県の農産物供給センターに第1号機を納入。
外食産業や食品工場を中心に現在までに15機を納入している。
「各工場や施設によって廃水に含まれる油の成分や量などが違うので、まずはその辺の調査・分析から始める。
それを経てそれぞれの廃水に見合った微生物の種類や量を決める、オーダーメイドシステムを採用している。
それなりに時間とコストはかかるが(平均して処理1立方メートル当たり40~50万円)、結果として廃水を完璧に浄化できるシステムと自負しています。
そうした蓄積の上に立ったプラント建設は、現在のところわが社くらいのものでしょう」。
●社内の意識革命のためのCI導入。
アクビック開発の翌年にはCIを導入。
コーポレートシンボルをHELS(とした。
「もともと日本ヘルス工業のヘルスは変更前の社名である東京保健事業株式会社の「保健」に由来しているが、時代を経て事業内容と社名がかけ離れてきてしまった。
社名を変えるのは勇気のいることなので、コーポレートシンボルとしてHELSと改めることとした」。
事業が拡大し、会社が大きく変わろうとしていた時期、意識面での変化も必然のことであった。
しかしながらもともと社団法人として発足、その後株式会社として企業化した歴史もあり、社内は変化を歓迎するムードばかりとは言えない状況だった。
この時期の人心一新には苦労したというが、この過程から生み出されたのが、HELSというコーポレートシンボルであった。
「戦後からずっと業務を続けてきた中で、世間の認識として汚れ物に携わるという感覚があり、また我々自身もそこに甘んじてきた面もあった。
しかしながら環境についての社会全体の関心度が高まり、認識も変わりつつある。
わが社の事業が、社会の中で確固たる役割・位置づけを得ていくためには社内の意識改革が必要と判断し、CIを導入した。
そういう意味では効果は上がってきていると思う」。
■ 視点を高いところにおいた環境事業を。
94年には大田区からの依頼を受けて、洗足池の富栄養化によって発生するアオコを除去し、肥料を作るシステムを開発した。
「アオコの問題にしても、それを取り除いて他のどこかに捨てるのでは根本的な環境の改善策にはならない。
除去したアオコを肥料化することに意味がある。
アオコのことに限らず、環境事業はすべて我々の事業も含めて、一部を見るのではなく視点を高いところに置いて全体をサイクルとして考えていくことが必要なのではないか」。
肥料化されたアオコは、大田区の公園や運動場の街路樹などに施肥しているほか、区民にも無料で配布されている。
また、今年10月には韓国三大財閥の大宇グループ・大宇建設と下水道処理施設の維持管理委託業務に関する技術協定を結んだ。
今後2年間にわたって大宇建設に対して下水道処理施設に関するノウハウや人材を提供していく。
「わが社のようなソフトを扱う業界が、海外から認められて協定を結んだことに意味がある。
こうした積み重ねが、ひいては国内でのソフト面への認識を高めていくことにつながっていくことを期待している」。
最後に今後の抱負を語ってもらった。
「今までの日本は生産性第一主義の、いわば国づくりの段階にあった。
これからの日本は、国の中身、すなわち文化が問われることになってくるだろう。
環境問題もその例外ではなく、今後は取り組みの質が重要になってくる。
環境問題対策の質の向上は、地方自治体によるきめの細かい環境行政が行なえるかどうかにかかっていると思う。
我々はエコロジー専門企業として、今後は行政に対して積極的な提案をしていくことで、環境行政のお手伝いができればと思っている」。
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