環境 干潟に潜む絶滅の兆候 ― イボウミニナの消失(2007年前後)
2007年前後、環境省が全国157か所の干潟で実施した調査は、日本の生態系が直面する深刻な現実を浮き彫りにした。東北から九州にかけて広く分布していた巻貝「イボウミニナ」が、関東地方では確認されず、従来の分布域から姿を消したのである。干潟はカニや貝類、ゴカイなど多様な生物が生息し、水質浄化機能を担う生態系基盤だが、戦後の高度経済成長期から進んだ埋め立てや港湾整備、浚渫、水質汚濁、さらに外来種の影響が重なり、急速に失われてきた。東京湾、伊勢湾、有明海など主要干潟の多くは縮小・劣化し、回復が難しい状況となっている。
2000年代初頭には「生物多様性国家戦略」が策定され、国際的にも生物多様性条約の締約国会議(COP)で干潟保全の重要性が議論されたが、現場では依然として生態系の脆弱化が進行していた。イボウミニナの消失はその縮図であり、小さな巻貝の分布消滅が、日本全体の環境政策に警鐘を鳴らす事例となった。環境省は調査の継続と保全策の模索を進める姿勢を示したものの、多くの干潟は不可逆的に破壊されており、早急な対応が求められている。
この事例は、地域の干潟における小さな変化が、実は国際的な生物多様性保全の文脈とも結びついていることを示した。イボウミニナの消失は、日本が直面する「持続可能性の危機」を象徴する現象であり、自然資源をいかに守り次世代へ継承するかという問いを突きつけている。
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