環境 繰り返し印字可能な紙と環境対応型印刷技術 ― 関連技術の広がり(2007年前後)
2007年前後は、京都議定書の約束期間(2008〜2012年)を目前に控え、あらゆる産業で省資源・低環境負荷の技術革新が急がれていた。印刷・出版分野も例外ではなく、紙資源の大量消費やインクに含まれるVOC(揮発性有機化合物)、現像液由来の廃液処理などが環境課題として浮上していた。その中で、リライタブルペーパーや水なしオフセット印刷、ハイブリッドインクが代表的技術として脚光を浴びたが、これらを支える関連技術も同時に進展していた。
まず、リライタブルペーパーの基盤は「光・熱反応性色素」や「フォトクロミック材料」である。これらは外部からの光照射や加熱により発色・退色を繰り返す特性を持ち、従来の使い捨てコピー用紙を大幅に削減する潜在力を持っていた。NECや富士ゼロックスなど日本企業は、専用プリンタと組み合わせたオフィス向けの導入実証を行い、循環型オフィス環境を提案していた。
次に、水なしオフセット印刷を可能にしたのは、シリコンゴム層を利用した水なし版と、UV硬化型インクの開発である。従来の湿し水を不要にすることで、IPA(イソプロピルアルコール)由来のVOC排出を削減し、印刷現場の労働環境改善にもつながった。関連技術としては「CTP(Computer to Plate)」によるデジタル刷版や、印刷工程の自動化も普及が進み、資源効率と環境性能を同時に高めることに貢献した。
また、環境対応型インクは、大豆油インクをはじめとするバイオベース原料の採用に加え、リサイクル容易性を高める配合改良が行われた。加えて、ハイブリッドUVインクは乾燥速度を飛躍的に高め、省エネ効果を発揮。印刷後のVOC揮発が少なく、印刷物の耐久性も確保できるため、環境ラベル認証取得の条件を満たすケースも多かった。
関連分野としては、デジタル印刷技術やオンデマンド印刷も環境対応と親和性が高い。必要部数のみを印刷する仕組みにより、在庫廃棄を削減し、紙とインクの使用量を抑制することが可能になった。さらに、製本工程では大豆由来の糊やリサイクル適合型接着剤が導入され、印刷から廃棄までを含むライフサイクル全体で環境負荷を考慮する流れが加速していた。
要するに、リライタブルペーパーや水なし印刷は単独の技術革新にとどまらず、材料化学、印刷機械工学、デジタル制御技術といった幅広い関連技術の進展によって初めて成立したものである。2007年前後の印刷業界は、環境規制と市場競争の双方に対応するため、環境技術を「制約」ではなく「革新の契機」として取り込んでいったのである。
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