Sunday, August 31, 2025

闇に潜む電子の刃 ― 北朝鮮「ダーク・ソウル」攻撃とサイバー戦略の進化(2013年)

闇に潜む電子の刃 ― 北朝鮮「ダーク・ソウル」攻撃とサイバー戦略の進化(2013年)

2013年、北朝鮮は韓国の銀行や放送局を標的とする大規模なサイバー攻撃を敢行した。世に「ダーク・ソウル」と呼ばれたこの作戦では、数千台に及ぶパソコンが一斉に機能不全に陥り、金融取引やメディア放送が停止した。戦場の砲火を伴わずして社会を麻痺させる、この新しい兵器の存在は世界を震撼させた。

時代背景には、金正恩体制の発足直後に強行された核実験と長距離ミサイル発射があり、朝鮮半島は緊張のただ中にあった。韓国では朴槿恵政権が誕生したばかりで、米韓合同軍事演習を背景に軍事的対立が高まっていた。そうした情勢の中、北朝鮮は従来の軍事力で劣る分を補うため、非対称戦力としてサイバー攻撃を選択したのである。

技術面では、マルウェアが組織内ネットワークに潜伏し、マスターブートレコード(MBR)を破壊して再起不能にする手法が用いられた。単なるデータ消去にとどまらず、システム基盤を破壊することで復旧を困難にした点は、軍事作戦における「破壊工作」と酷似していた。また、指令サーバを経由して同時多発的に発動させる構造は、後の大規模ランサムウェアや破壊型攻撃の原型を示していた。

「ダーク・ソウル」攻撃は、北朝鮮のサイバー部隊「121局」が関与したとされ、同国が国家戦略としてサイバー兵器を整備していることを示す象徴的事件となった。これは翌2014年のソニー・ピクチャーズ攻撃へと連続し、北朝鮮が従来の砲火ではなく「電子の刃」で国際社会に挑む姿勢を鮮明にした。サイバー空間は、もはや影なき戦場として、冷戦後の安全保障の図式を塗り替える新しい舞台となったのである。

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