Saturday, August 30, 2025

■湖沼の水質汚濁や工場の排水、廃液など、水を取り巻く浄化・処理ニーズは多様化しています。

■湖沼の水質汚濁や工場の排水、廃液など、水を取り巻く浄化・処理ニーズは多様化しています。
処理装置メーカーは自社のコア技術を軸に、用途に応じて既存技術を応用する開発が一般的です。
これに対し、株式会社カラサワファインは発想力に長けたベンチャーとして注目を集めています。
●アオコ対策1兆円市場に挑む「対向衝突技術」中国には3671か所の湖沼があり、1980年代から都市化による家庭や工場から未処理の排水によって富栄養化が進み、植物プランクトンの大量繁殖、すなわちアオコの発生に悩まされています。
中国南西部にある雲南省昆明市の漢池(でんち、面積200km2)もその一例です。
「高原の珠玉」と称えられた風光明媚な湖はいまや世界的に有名なアオコ発生水城として名高くなっています。
この槙池で、2台のアオコ駆除装置が稼働しています。
それがカラサワファインによる「クルークシステム」です。
クルークには、対抗衝突技術と呼ぶ技術が導入されています。
開発者の同社代表取締役・唐澤幸彦氏は「簡単に言えば、物を双方向から同圧の力で衝突させ、均等に細かくする技術」と語っています。
クルークは、加圧ポンプで汲み上げたアオコ含有水同士をぶつけ、ミクロキスチンなど毒素を含むアオコの気泡やシース状体を包む鞘を破壊します。
破壊された気泡は水底に沈殿し、光合成ができなくなって自滅します。
もちろん薬剤は一切使用しません。
対向衝突技術は、最初からアオコの駆除を目的に開発されたわけではありません。
「材料の微粒子化が不可欠な工業製品や化粧品、食品などに必要な加工技術として確立されたもの」(唐澤氏)であり、カラサワファインでは「アルティマイザーJ」という装置名で、大手メーカーをはじめ多岐にわたる導入実績を持ち、その名は広く知れ渡っています。
環境ビジネスの参入企業としてはむしろ後発組です。
■対向衝突技術をアオコ駆除装置に応用したきっかけはこうだった。
1999年当時、理学博士として埼玉大学の客員教授を務めていた唐澤氏に、同じ大学院の環境工学科のある教授が、同技術のアオコ処理での可能性を提案しました。
そこで唐澤氏は、2000年に埼玉県幸手市の権現堂池(利根川の人工調整池)のアオコ処理有用技術実証のコンペにクルークのテスト機で参加しました。
「他の11社は実験開始1ヵ月後の効果は見られなかったが、クルークは半日程度で処理が完了しました」(同氏)。
この結果は行政から注目を集めましたが、公共事業の縮小、自治体の財政状態が芳しくない状況から導入は棚上げになりました。
そんな折、中国国家環境保護総局(SEP)心の中日環境友好センター秘書長・趙峰氏が助け舟を出しました。
2人は旧知の仲だったこともあり、趙氏はクルークを有用なアオコ駆除装置として地方当局に推薦しました。
唐澤氏は日本政策投資銀行(JBIC)での予算も確保し、中国導入の後押しを受けました。
中国政府は湖沼のアオコ対策に年間1兆円を投じており、同規模の市場が今後期待できます。
太湖もアオコ対策に苦慮しており、沿岸にある無錫市がクルークを購入する予定です。
「太湖のアオコをすべて浄化するにはクルークが100台、漢池なら40台ぐらいは必要です」(同氏)とのことです。
同社は今後、中国での事業はライセンス供与の形で現地での生産・販売会社に提案していく方針です。
「毎分7トン処理できるクルークの製造原価は日本で7000万~8000万円ですが、現地生産なら3000万円程度で済みます。
売値で8000万円なら現地が買ってくれる価格ラインです」(同氏)
■コア技術と既存技術の組み合わせは、多くの場合、企業の基本方針となりますが、開発力の真髄は、その考え方にあるでしょう。
時にはコア技術にこだわらず、発想を転換し、ニーズに応えることが重要です。
和歌山の梅干加工メーカーのために開発された「バンネンシステム」が良い例です。
07年4月のロンドン条約の規制強化により、使用済み調味液の海洋投棄ができなくなり、そのまま排水することもできなくなりました。
そこで同メーカーはヌルラッセンの導入を検討しました。
廃液サンプルの処理テスト結果は良好でしたが、1億円というイニシャルコストが導入の大きな壁となりました。
「よくよく調べてみると、使用済み調味液には塩分や糖分、アミノ酸など、捨てるにはもったいない成分が多く含まれていて、ヌルラッセンで完全分解するぐらいなら有効利用すべき」(同氏)との考えから、バンネンが考案されました。
バンネンは、使用済み調味液にクエン酸析出液を混ぜ、最初に色素を取り除いた後、塩分をできるだけ大きな結晶体となる温度で加熱・抽出し、同温で水あめ状態の糖分やアミノ酸を抽出する技術です。
90%以上の回収率を実現しています。
「ちょっと考えて作ってみた」(同氏)という発想から生まれた技術ですが、この温度調節が技術のミソであり、意外にも類似技術の前例はありません。
和歌山の梅干メーカーは400社程度あり、寡占の大手2社では、イオン交換膜を使った大手メーカーの塩分抽出装置を導入しています。
しかし高価で抽出効率は悪いとのことです。
バンネンなら12時間1000リットル処理でも1800万円で、中小の梅干加工メーカーが共同利用する方法ならさらにコストが下がります。
■「技術を紐解けば、所詮、コロンブスの卵ですよ」と謙遜する唐澤氏ですが、 「普通の人がA→B→Cと考える技術なら、自分はA→S→Zと発想を飛躍させる」という通り、この考え方にカラサワファインの将来性が見えてきます。
「世の中のどこにもないような技術を開発できる頭や技能があるわけではないし、あっても実用化までに時間もお金もかかります。
既に確立された技術を、そのまま適用するのは容易なこと。
ただし、当社の場合、コア技術に必要な既存技術の集め方や組み合わせ方が他社とは多少異なるということです」。
現在は水処理に関連する装置がほとんどですが、対向衝突技術が適用できる環境改善の領域は広範囲にわたります。
たとえば現在、セメント原料しか用途のない石炭灰を分離すれば、純度の高い鉄やセラミックスが抽出でき、リサイクルの幅が広がります。
唐澤氏の研究テーマのひとつです。
「世の中のニーズに即した対向衝突技術の応用アイデアは常に40パターンはありますよ」(同氏)

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