Saturday, August 30, 2025

環境 干潟に潜む絶滅の兆候 ― イボウミニナの消失(2007年前後)

環境 干潟に潜む絶滅の兆候 ― イボウミニナの消失(2007年前後)

2007年前後、日本の沿岸環境では急速な生態系の変化が進んでいた。環境省が全国157か所の干潟で実施した調査は、その象徴的な事例を示した。東北から九州にかけて分布していた巻貝の一種「イボウミニナ」が、関東地域では確認されず、従来の分布域から姿を消していることが明らかになったのである。

干潟は、カニや貝類、ゴカイなど多様な生物が生息する場であるだけでなく、海水と河川水の交錯による水質浄化機能を持ち、人間社会にとっても生態系サービスを提供する重要な環境基盤である。しかし、高度経済成長期以降の都市化と産業発展の中で、東京湾や伊勢湾、有明海など各地で干潟が急速に失われた。埋め立てや港湾整備による直接的破壊、さらに浚渫や水質汚濁、外来種の侵入など複合的要因が生物多様性の喪失を加速させた。

2000年代初頭は「生物多様性国家戦略」が策定されるなど、国際的にもCOP(生物多様性条約締約国会議)で保全強化が叫ばれ、日本国内でも干潟の重要性が改めて認識され始めた時期である。イボウミニナの消失は、その流れに警鐘を鳴らす具体的な事例となった。環境省は今後も継続的に干潟調査を実施し、保全策を模索するとしたが、すでに多くの干潟は不可逆的に失われており、回復の難しさが浮き彫りとなった。

この事例は、地域の小さな干潟で起きた生物の消失が、日本全体の環境政策や国際的な生物多様性保全の議論と密接に結びついていたことを示している。すなわち、干潟の破壊とイボウミニナの絶滅の兆候は、当時の日本が直面した「持続可能性の危機」の縮図であったといえる。

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