Friday, August 8, 2025

北極を目指した銀幕の乙女―1960年代から1970年代

北極を目指した銀幕の乙女―1960年代から1970年代

和泉雅子が16歳で日活に入社し、1961年にスクリーンデビューしたのは、日本映画界が高度経済成長の波に乗り、まだ華やかな活気を放っていた時代でした。戦後15年が経ち、テレビが急速に普及する中でも、映画は若者文化の中心にありました。特に日活は青春・アクション路線で勢いを増し、小林旭、赤木圭一郎、渡哲也らがスクリーンを飾り、その相手役として若い女優が求められていました。

和泉雅子は、清純さと健康的な明るさを兼ね備えたヒロインとして登場します。代表作『銀座の恋の物語』では、小林旭とのコンビで都会的で情熱的な恋愛を演じ、戦後復興の熱気と新しい恋愛観を若い観客に届けました。ほかにも『海の若大将』では、爽やかな青春像を鮮やかに映し出し、都会的な洗練と素朴な可愛らしさを両立させた存在感を示しました。これらの作品は、高度経済成長期の若者たちが求めた理想像を体現していたと言えます。

しかし1960年代半ば以降、学生運動や社会不安の広がり、テレビの台頭による映画界の衰退など、環境は急速に変化します。その中で和泉は、スクリーンの外にも活動を広げ、舞台やテレビで存在感を保ち続けました。そして1971年、女性単独での北極点到達という偉業を成し遂げ、銀幕スターから冒険家へと異例の転身を果たします。

同世代の女優と比べると、吉永小百合が一貫して映画女優として国民的人気を保ち続けたのに対し、和泉は銀幕の枠を超えて自ら新しい道を切り開いた点が際立ちます。また、浅丘ルリ子のように妖艶さで役柄を広げたタイプとも異なり、健康的で行動的なキャラクターを貫いたことが特徴です。和泉雅子の歩みは、戦後復興から多様化の時代へと進む日本社会を映す、稀有な人生の軌跡でした。

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