Saturday, August 23, 2025

環境 不法投棄防止と家電リサイクル法(仮称)の骨格 ― 廃棄社会から循環型社会への転換 1990年代後半

環境 不法投棄防止と家電リサイクル法(仮称)の骨格 ― 廃棄社会から循環型社会への転換 1990年代後半

1990年代後半の日本では、高度経済成長期以降に普及した冷蔵庫やテレビ、洗濯機といった家電製品が耐用年数を迎え、一斉に廃棄期を迎えていた。しかしその処理費用は高額で、正規の処理ルートを避けた 山林や河川敷への不法投棄 が社会問題化していた。地方の山間部には廃家電が放置され、環境破壊だけでなく景観や住民生活にも深刻な影響を与えていた。これに加え、産業界ではPCB排液が全国で約2万1000事業所に保管され、処理遅れが長年の懸念事項となっていた。

こうした状況を背景に、通産省と厚生省は「家電リサイクル法(仮称)」の骨格をまとめ、不法投棄防止とリサイクル推進を二本柱とする制度設計を進めた。その中心に据えられたのが 管理伝票制度 である。これは廃家電が消費者から販売店、メーカー、処理業者へと引き渡される一連の過程を記録し、伝票控えを証明として残すことで、不法投棄を封じ込める仕組みだった。また、販売店には処分費用を店頭で明示する義務が課され、消費者は購入時点から廃棄コストを把握できるようになった。さらにメーカーにはリサイクル実績の定期報告が義務づけられ、違反時には最高300万円の罰金という厳罰も規定された。

この制度設計は、当時進行していた「大量生産・大量消費・大量廃棄」型社会からの転換を象徴するものであった。欧州ではすでに拡大生産者責任(EPR)の思想が浸透しつつあり、日本もその流れを受けて企業にリサイクル責任を課す方向へ舵を切ったのである。環境庁や厚生省は全国7会場でセミナーを開き、事業者や自治体に制度の趣旨を周知徹底した。

結果としてこの取り組みは、2001年の「特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)」の施行へと結実する。90年代の不法投棄の横行とPCB問題は、環境政策を単なる「規制」から「循環型社会への制度設計」へと発展させる契機となったのである。

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