穀物から生まれる未来の樹脂―滋賀県大津市・1996年
1990年代半ば、日本は高度成長期からバブル崩壊を経て、持続可能な経済と環境保全の両立が社会的課題として前面に浮上していました。大量生産・大量廃棄型のライフスタイルが見直され、廃プラスチックによる環境負荷、最終処分場の逼迫、焼却時に発生する有害ガスの問題が顕在化。国際的にも1992年のリオ地球サミット以降、資源循環型社会への移行が求められ、欧米では植物由来のバイオプラスチック開発競争が進展していました。
こうした時代背景のもと、島津製作所は滋賀県大津市に年産100トン規模のポリ乳酸プラスチック「ラクティ」生産プラントを設置しました。原料はトウモロコシなどの穀物から抽出した乳酸で、石油資源に依存せず、使用後は微生物や酵素によって水と二酸化炭素に分解されます。透明性や安全性に優れ、医療用縫合糸やドラッグデリバリーシステム、食品包装材などへの応用が期待されました。
関連技術として、乳酸発酵効率の向上や精製工程における不純物除去、重縮合による高分子化技術が鍵となります。さらに、ポリ乳酸の脆さを補うための共重合やブレンド技術、成形加工の最適化も進みました。当時は微生物発酵由来のPHA樹脂や脂肪族ポリエステル系生分解樹脂も開発されており、島津の取り組みは国内における先駆的事例でした。
琵琶湖を抱え、水環境保全への意識が高い滋賀県大津市に立地したこのプラントは、地域特性と企業の環境技術が結びついた象徴的存在であり、日本の植物由来プラスチック普及の第一歩となりました。
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